-中世時代で大逆転-原案・sukiari-聖堂裁判-より
製作発案・Zabara
画像:sukiari/Zabara トップ絵:sukiari
中世において行われた「魔女狩り」その裁判は、告発と自白によって決裁されていた。一度魔女として捕縛されてしまったら最後、あらゆる苦痛を受けたという。苦しさのあまり自白し、魔女として火炙りの刑に処せられるか、あるいは人間として拷問の内に死ぬか。被疑者は死以外の選択肢を与えられてはいなかった。
西暦1×××年×月×日(×)第×××号裁判記録
第13課特別封書×××号-××
法王庁機密文書指定××号

裁判長…巡回裁判所長

被疑者…10代女性(経歴他記録抹消)

検事…異端査問委員会実働部隊長

弁護人…不明(中国人ト思ワレル)

弁護人従者…不明(中国人ト思ワレル)
本裁判ハ公式記録上存在セヌコトトス
法王庁第13課課長×××司教

「これより、第××回巡回…おほん、魔女裁判を行います。検事、よろしいですね?」

「…検事側、準備は整っております。」

「弁護人、よろしいですね?」

「…弁護側も、用意は整っています。」

「さて今回は、被疑者側の強い要望により、弁護人がつくことになりました…正直、弁護する方がおられるとは思いませんでしたが…そのため、正規裁判として行います…まぁ、異例の裁判となりましたな。」

ザワ…ザワ…

「………」

「分かっていると思うが…弁護人、そこの小娘が魔女と認められた場合、貴様は悪魔に手を貸した異端者として、魔女と同様に火炙りの刑になるのだぞ。」

「…ご忠告痛み入ります。ですが…それは杞憂ですよ。」

「我々の勝利で終わるのですから!」

「むぅ…」

「(こんな時代に招かれて弁護を行うことになったけれど…負けるわけにはいかない!)」

「………」
「…本当に大丈夫?言葉は魔法で何とかしてもらったけど…教会のことや魔女裁判なんて本当に分かってる?(ボソ」
「…予め向こうで準備をしてきたからね。何とかなると思うよ。(ボソ」
「でも、本当に勝てるの?このコ…思いっきり魔女だよ…(ボソ」
「…いや、本当のことを言うと全然勝てる気がしない(ボソ」
「ええ!?じゃなんで引き受けたの!!(ボソ」
「…魔女裁判は弁護人もなく…本人の合意もなく…拷問と自白で行われたんだよ。それを見過ごすわけにはいかない!(ボソ」
「…でも、この時代だと魔女の存在は違法で…あのコは本物の魔女なら…犯罪者を無罪にするっていうことになるんだよ?…嘘ついてまで…負ける覚悟までして…行う必要があるの?(ボソ」
「…僕は僕の良心に従う、そして未来によって多くの見識者によって紡ぎ、生み出された未来の法に従う。外見や職種に貴賎はない、それ存在自体が悪だと断罪する…そんなものは法ですらない!それに…(ボソ」
「…それに?(ボソ」
「…不思議な力を持っているコが身近にいるからね。人事だとは思えないんだよ。(ボソ」
「………(真っ赤」
「…あ、いや。(ボソ」
「…そうだよね、そんな法は間違っているよね。うん、分かった。一緒に火炙りなってあげる。だから頑張って!(ボソ」
「…ああ、ありがとう。」

「いつまで、ボソボソとしゃべっておるのだ!さっさと始めるぞ!」

「…あ、すいません。」

「では検事…お願いします。」

「わかりました。我々、異端査問委員会の主張は、実に簡単なことです。そこで空にプカプカと浮かんでいる魔女っこを…魔女として告訴する!」

「魔女に死を!」
魔女に死を!…魔女に死を!…魔女に死を!
魔女に死を!…魔女に死を!…魔女に死を!
「か、会場中が敵に回っているよ!」

「本当に…大丈夫?」

「良くあることです。それよりも、一つお聞きしたいのですが…」

「…何?」

「裁判は、この一回きり…それで終わりですね?」

「…うん、この裁判さえ防げれば、後は仲間が上手くやってくれるから。大丈夫。」

「(その仲間が上手くいかなかったら、こうなった気がするけど…)分かりました。それならば手はあります。」

「おっ、お得意のハッタリだね!」

「(…せめて弁論と言ってくれ)」

「ハテ?…検事、一つ伺いしますが…魔女っコということは、まだ魔女になっていないということなのですかな?」

「同じこと、大木の芽は幼い内に摘むに限る。どこぞの異端のブリティッシュとは違い、魔女専門学校を容認するほど、我々は腐ってはおりませんからな。」

「そうですな。うむ。では…検事、彼女が魔女たる証拠を…と、まぁ、いうのも野暮ですかな。」

「左様…見たまま、魔女です。以上!」


「検事側は、確たる証拠も無しに不当に彼女を魔女として扱おうとしています!」

「…何を言っているんだ弁護人?頭がゆがっているのか?」

「弁護人。何も反撃の手が無いからといって、無意味な異議申し立ては…」

「では裁判長!裁判記録に「判決理由:見たまんま」とお書きになるおつもりですか?」

「むぅ~、それもそうですね。異議を認めます。検事は具体的な証拠なり証言なりを出してください。」

「…全く、姿!形!若さに似合わない豊富な知識!何より空中に浮かんでいるのが何よりの証拠ではないか!」

「ふむ、その通りですね。それで弁護人は何か言うべき言葉があるのですか?」

「あります…ありすぎて、どれにしたら良いか迷うほどですよ。」

「…何だと?」

「まず、姿形…これのどこが、魔女たる証拠なのですか?」

「…ふざけているのか!トンガリ帽子に黒のローブ!まさしく魔女の典型的な服飾ではないか!」

「トンガリ帽子ならそこの処刑人だって被っています。」

「!?」

「黒のローブなら、判事だって着られている。検事は処刑人や判事の方々が魔女だと主張されるつもりなんですか?」

「な、なんという屁理屈だ。呆れてものがいえん!」

「左様、無茶苦茶ですぞ…そんな強引な理屈が通ると思うのですか!」

「しかし、検事はその強引な理屈を通そうとしています。」

「なんだと!どこが強引なのだ!」

「服装が変っていると言う理由だけで、魔女と認定しようとしているじゃありませんか!」

「そ、それはそうだが!」

「裁判長のおっしゃられる通り、服装だけでは、その人となりは判断できません!フェルナンド王子が王女にあうために従者の格好をしたという故事もあります!必ずしもトンガリ帽子やローブを着ているからといって魔女と結論づけることはできないのです!」

「!」
…ザワ…ザワ…ザワ
「やったね!一本とったよ!」

「静粛に!しかし、弁護人。幾ら服装は関係ないといっても、どう見ても魔女の格好ではありませんか。これでは魔女と指摘されても仕方ないと思いますが。」

「それは個人の趣味です。」

「なんだと!」

「彼女は若く、世間に対して反抗心を持ちたい年頃なんです。確かに魔女の格好は不謹慎で、厳重な罰を与える必要はあるかもしれませんが、いきなり魔女と断罪されるなんて行き過ぎでしょう。」

「ま、まぁそうですね。スジとしては分からなくはありませんが…」

「何を言っているんですか判事!服飾なぞどうでもよろしい!問題はアレだ!空を飛んでいることでは無いか!」

「………」

「ど、どうするの?いきなり核心をつかれちゃったよ!」

「…発想を逆転させるんだよ。」

「…え?」

「魔女だから空を飛べる…のでは無く、空を飛べるのはなぜ?ということさ。」

「???」

「何か言うべき言葉はあるのかね!まさか鳥も空を飛んでいるから、人も飛べる…なんて馬鹿げたごとを言うつもりでは無いだろうね。ははは。」

「…奇跡ですよ。」

「…は?」

「奇跡が起きたんです!」

…シーン

「な、何を言って…」

「何を言っているンだぁ!!!!!!!」

「………」

「言うにことを書いて奇跡だと…貴様はやはり悪魔の手先かぁ!!!!判事!弁論なぞ、もう必要は無い!死刑だ!こいつら皆、火炙りにしろぉ!!!!」

「お、落ち着いて下さい!落ち着いて!」

「弁護人…貴方は今、何を言っている分かっているのですか?魔女が、実は祝福を受けた者だと主張するですか。場合によっては、貴方はもっとも罪深きことを犯そうとしているのですぞ!」

「ジャンヌダルクは魔女として処刑されました。」

「………」

「では、私も判事と…そして陪審員の皆さんに問いたい。同じ過ちを繰り返すのかと。」

「ハァ…ハァ…この、何の証拠があってそんなことを言うのだ!証拠を見せろ!証拠を!」

「彼女は魔女では無い、なら奇跡の力しかないじゃありませんか。」

「ふざけるなぁ!」

「弁護人、検事の言われる通りです。貴方はふざけています!」

「いえ、ふざけていません!なぜなら、検事側の立証がなされてないからです!」

「何だと!」

「検事、貴方はなぜ彼女が空に浮かんでいるのを見て、魔女だと考えたのですか?」

「なに!」

「なぜ、魔女だと考えたのですか!」

「それは…く、空中に浮かんでいれば誰だって!」

「聖書によればキリストも空にいた!では貴方はキリストも魔女だと言うつもりか!」

「ち、ち、ちがう!それは、そんなのは思うわけがない!思うわけが無い!」

「検事、少し落ち着きなさい。彼女は魔女の格好をしていた。魔女の格好をしていた人間が空中にいたら、誰でも魔女だと思うでしょう。」

「…その通りです。服飾や、空を飛んでいる非現実的な状況をみて、検事はかなりの先入観をもって彼女に接しました。これではまともな証拠も証言もあるわけがありません。」

「貴様は私の思い込み…妄想だと言うつもりか!」

「間違いは誰にでもあるものです。それを弁護側は強く主張します!」

「…ふむ。しかし、先入観はともかく、彼女が空に飛んでいることはどう説明します?」

「そうだ!どう説明つける!」

「むぅ~判事のおじいちゃん、相手よりで嫌な感じ。」

「仕方がないさ。この時代は救世主信仰一色だからね。」

「えーい!こんな時に女といちゃつくな!」

「弁護側の主張は一切変っていません。彼女は奇跡の力で浮かんでいるのです。」

「ふ、ふざけるなぁ!あの女がキリストと同じ神に祝福された存在だとでも言うつもりか!」

「神…とは限りないんじゃないですか?」

「なに?」

「天使が降りてきて、祝福した。これは事例も多いですし、ありえないことでは無いと思いますが?」

「馬鹿な!デタラメだ!そんな話は彼女から聞いていない!」

「聞いていないから存在しないと?…そもそも、検事は彼女の話をまともに聞きましたか?」

「まともに聞く必要なぞない!確かにあの女は力を授けられただろう。ただし御使いでは無く、悪魔によってだ!」

「なぜ、そこまで言い切れるのですか?」

「弁護人…爪が甘かったようだ!聞いているんだよ、あの娘があった存在とやらの形状を、本人の口からな!」

「な、なんだって!」

「彼女によると、ソイツには天使の輪や羽が生えてはいなかったらしいぞ!…わかるか?そいつは紛れも無く悪魔だからだ!」

ザワ…ザワ…

「静粛に!…検事、そういう話はもっと早くにしてもらいませんと、これでは先ほど慌てたのが馬鹿みたいじゃないですか。」

「いやぁ~少しばかり、裁判を楽しみたかったもので…ははは。まぁ、先ほどは救世主を引き合いにだされて、少しばかり頭に血が登りましたが。でも、なかなか面白かったでしょう。」

「ど、どうしよう!こんなのって…!?」

「悪魔と合っていた…そういう話を検事としてたんですか?」

「あ、悪魔じゃない。精霊…水の…でも、あいつは精霊を認めてくれなかったし、話もほとんど聞いてくれなかった。」

「悪魔とは認めていない?」

「う、うん。」

「なら…まだ、なんとかなるな。」

「…え!?」

ザワ…ザワ…

「静粛に!では、もう結論は出たようですね。判決を言い渡します…」


「検事の主張は間違っています。それどころか今回の検事の証言により、御使いに出会った可能性が一段と高くなったと断言します!」
ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」

「何を…何を言っているんだ貴様は!」

「検事、貴方は宗教にお詳しい、またその教団がつきかってきた長い歴史を知っているはずです。」

「当たり前だ!私を誰だと思っている、異端査問委員会の直属の実働隊の長だぞ!」

「では、お聞きします!貴方は御使いに合われたことはありますか!」

「な、なに?いや、未だ信仰心が足りんゆえか、御使いが降臨されたことは無いが…それが何だと…」

「おかしいんですよ…貴方の主張が!」

「どういうことですかな?」

「検事は、こう主張しました。天使の輪がなかった。そして羽が無かった。」

「おかしなことは何もないと思いますが…」

「ならば、これをご覧下さい…証拠物件Aです。」

「これは…」

「これは公立図書館のコピー…い、いや、その…ある画家に描かせた模写です。」

「!?」

「気がついたようですね。12世紀以前の大昔の聖堂画には…天使の輪や羽が無いものが多いのです。いえ、むしろ…それらの様式はルネッサンスにより大きく広げられてイメージです。」

ザワ…ザワ…

「静粛に!静粛に!」

「そもそも天使とは、どんな姿見をしているか?皆さんは、一度ならずも聖書をお読みになられたことでしょう。聖書の中にいる御使いは、実に様々な姿見をしておられます。四つの顔があり、火を吐いたりする天使もおられます…」

「つまり、光輪や羽が無い天使が降臨される可能性も十分ありえるのです!」
…おお!
「き…詭弁だ!」

「検事は御使いと合われたことがないのに、なぜ詭弁だとおっしゃられるのですか!その根拠をお示しになって下さい!」

「天使は神に使えしもの!悪魔は神に反逆するものだからだ!」

「それは内面的、性質的な話では無いですか!私は見た目で確認できるかを聞いているんです!」

「う、グゥ!?」

「ちょっと待ってください!弁護人、彼は査問のプロですぞ…例え輪や羽がなくとも、話を聞けば、天使と悪魔を間違えるなどということは…」

「裁判長。悪魔は天使の堕ちた姿と言われています。ならば検事が間違えたとしても不思議ではありません!…そもそも検事は光輪や羽があるのを基準に考えていました。判断を誤る可能性は十分以上にあります!」

「…ぐ!?」

「しかし、彼女は悪魔にあったと言ったのではありませんか!」

「裁判長、それは錯覚です!彼女は一言も悪魔に合ったとはいってません。そして検事は姿形を聞いて、勝手に悪魔だと解釈したにすぎません。」

「そうなのですか!」

「…た、確かに直接悪魔と聞いたわけではないが…」

「発言は正確にお願いします!では彼女が会ったのは…?」

「彼女は精霊とあっていたといいます。すなわち、三位一体…その一つ精霊とです!」

「精霊にあった!?そ、それは本当ですか!」

「…はい。」
ザワ…ザワ…
「静粛に!静粛に!」

「良く知らないんだけど、父と子と精霊の名において…の精霊って、水の精霊とか、そういうことも指すの?(ボソ」

「さぁね。僕も良く知らないよ(ボソ」

「ええ!でも今、自信満々に…(ボソ」

「ウソはついてないだろう?精霊にはあっているんだ。それが天使だとは言って無いけど、向こうが勝手に勘違いしてくれるのなら、それを利用するだけさ(ボソ」

「(お、鬼だ…鬼になっているよ!)」

「…う、ぐ…皆の衆!惑わされてはならない!御使いが、女子供に降臨するなぞ…」

「御使いは、子供十字軍やジャンヌダルクにも降臨した!貴方はそれを否定するつもりですか!」

「!?」

「検事!貴方の発言は懲罰委員会ものですぞ!」

「も、申し訳ありません…しかし、しかし…弁護側の主張は、認められるものではありません!」

「う…うむ。確かに…認めるわけには…これはとても重要かつデリケートな問題ですからなぁ。」

「………」

「どうでしょう。弁護人側は、彼女が御使いから祝福を受けし聖女であると、証明できますか?」

「…その必要は無いと思います。」

「な、なにを言っているんだぁ!!!」

「…弁護人、貴方は法廷を侮辱しているのですか?」

「…本法廷が「彼女が聖女か否か」というもので開かれているのならば、準備もしてきますが、今回は「彼女が魔女か否か」という問題で開かれているのではありませんか?」

「…それは…そうですが。」

「…魔女か否かを立証するのは検事の責務ですが、聖女であるかどうかを立証するのは、弁護人の責務ではありません。そもそも我々は検事の「思い込み」に対して疑問を投げかけているだけなのです。すなわち…」
「「力を持つもの」への偏見に対する弁論であり、必ずしも「力を持つものは魔に魅入られてものばかりではない」と主張しているのです!」
ザワ…ザワ…

「静粛に!静粛に!」


「詭弁にもほどがある!検事側は、弁護側の立証を求めます!それが出来ない場合は、発言の…」


「検事側は、裁判中には絶対に不可能なことを要求しています!」

「ハっ!ついに馬脚を現したか!言い逃れも終わりだな!」

「…そうではありません。彼女を聖女として認めてもらうには、彼女を無罪にするしか道はないからです。」

「どういう意味ですか?」

「裁判長、奇跡の認定はどのようにして行われるのですか?」

「それはもちろん、法王庁直轄の奇跡認定委員会で…あっ!」

「委員会は高位の聖職者達によって運営されています。そこに魔女の疑いのあるものを送り込めと、検事はいっているのです。」

「何という事を!検事、貴方は何を考えているのですか!司祭の方々を危険なめに合わるつもりなのですか!」

「ち、違います!私はそんなつもりで発言したのでは…」

「つまり、彼女が魔女ではないと本法廷で決裁されない限り、奇跡認定委員会へ赴くことも、ましてや認定されることもできないのです!」

「…ふむ。それでは順序が逆ですな。魔女でないと証明するには聖女という証明が必要。だが、聖女と証明されるには、魔女ではないと証明されることが必要…ううむ。これは困ったことになりましたな。」
ザワ…ザワ……おいおい、力のあるヤツは魔女じゃなかったのかよ?
…奇跡なの?奇跡がおきているの?
…なんか分けが分からなくなってきたぞ…誰か説明しろよ…
「…(よし、このまま証拠不十分で不起訴になれば勝ちだ。いや、この法廷を乗り切ればいいんだ。奇跡認定委員会へ何とか都合をつけようと一時休廷を宣言したとしても、大勝利に違いない。)」

「…やったね。もう議場はグチャグチャだよ!恐怖のハッタリ・パワーはダテじゃないよね。」

「…うう、良心に従ったとはいえ、心が痛い。」

「…ならば、ならばこれはどうだ!」

「…!」

「どうしました?」

「…裁判長、道具ですよ。奇跡を行うのに…あの娘は道具を、ホウキを用いている!」

「ホウキ?ああ、ホウキに乗っていますなぁ」

「本当に奇跡を行えるのならば、ホウキにのらなくても浮遊できるはずだ!」

「なるほど、弁護人、何かいう事はありますか?」

「…前にも言ったとおり、彼女は魔女のスタイルが好きだった。というだけの話です。」

「スタイルじゃなく、魔女だからホウキにのっているのだ!」

「もう!あと少しだったのに!とりあえずアノ子、怒ってくるね!」

「…い、いや別にいいよ。それよりも検事…貴方は、彼女の現在の様相を見て、魔女の完全なるスタイルだと主張するつもりですか?」

「その通り!」

「…絶対?」

「左様!」

「…間違いなく?」

「くどい!何が言いたい。」

「…検事。語るに落ちましたね。貴方は自分の鑑識眼の無さを証明してしまった。」

「な、何だと!」

「彼女のスタイルで魔女と判断するなんて…ありえないんですよ。」

「どういうことですか?」

「…ホウキの向きです。」

「あ、あああ!?」

「ホウキの向き?別におかしな所はありませんが…」

「逆なんですよ。ホウキの向きが!」

「逆?」

「本来ホウキの頭の部分は後にこなければならない!前にあるなんてありえないんですよ!…この辺りは、専門家の検事のほうがお詳しいと思いますが。」

「そうなのですか?」

「…はい。」

「魔術や魔法には、ちゃんとした形式があります。手順を狂わすと、それはとんでもない状況に…俗にいうところの呪い返しのようなことがおこります。本物の魔女が果たして、そんなミスをするでしょうか?」
ザワ…ザワ…
「………」

「へ~そうだったんだ。あ、そっか。それで議場を飛んでいたんだね。予め打ち合わせておいたなんて、おぬし達やるな!」

「あ、あははは…」

「あ…れぇ?(もしかして、このコも知らなかったとか?」

「では彼女のスタイルは…」

「ですから、単なる趣味です。絵本などには、よくあのような格好で空を飛んでいるのでマネをしただけでしょう。いえ、むしろ魔女に対するアンチテーゼとして行っているのかもしれませんね。」

「…では、道具を使わずに浮くことは可能なのか?」

「いえ、飛ぶには道具が必要でしょう…そうですよね?」

「あ、はい。」

「そ、それでは話が違うでは無いか!」

「弁護人…貴方は法廷をおちょくっているんですか?今さっき、単なるマネ格好のスタイルに過ぎないと言ったばかりではありませんか!」

「別に矛盾はしてないと思いますが?」

「どういうことだ!」

「つまり、彼女の力はそれほど強くなく、飛ぶためには何かしらの触媒が必要なのです。その結果、魔女のスタイルが好きな彼女はホウキを選んだ…おかしくはないと思いますが。」

「それを証明できますか?」

「現に、今もホウキで空をとんでいるじゃありませんか。」

「…う、む。そうですね。」

「ならば魔女とは違い、他の道具でも空を飛べるというのだな。試しに幾つか使って飛んでみてもらおうか!」

「検事は馬に乗れますか?」

「やぶから棒になんだ。乗馬ならば得意中の得意だ。10歳から習っているからな。」

「では、ラクダに乗ることはできますか?」

「ラクダ?乗れないこともないと思うが…」

「馬のように自由自在に操れるわけでは無い…そうですよね?」

「弁護人は何を言いたいのですかな?」

「日頃から慣れ親しんだものから、べつなものに乗り換えろと検事はおっしゃられていますが…練習もせず、突然別なものに乗り換えて上手く扱えると思いますか?」

「慣れないものを用いても上手くはいかないでしょうな。」

「いや、しかし…」

「検事側は道具の使用に、ひどくこだわりますね。それほど重要なことなのですか?」

「むろん…私としては奇跡が行えるのであるならば、道具にはこだわらないと…いや、必要ないと思うだけです…」

「ふむ。弁護側は、どう思われますか?」

「検事の発言は、御使いの祝福に、キリスト級のご加護があるという前提にあるからだと思います。」

「つまり検事は、過度の期待を寄せているからだと?ですが、私も…ある程度何でもできるんでは無いかとも思うのですが。」

「神に直接祝福されたキリストならばともかく、御使いの祝福ではそれほどまでにはいかないかと思います…現にジャンヌダルクは天使に祝福されましたが、空も飛べませんでしたし、最後には捕縛されてしまいました。」

「…ふむ。」

「しかし、道具をもちいるというのは…」

「道具を用いるのが、それほど不思議ですか?道具でも聖杯や聖槍など…聖遺物などもあります。」

「聖なる力のそなわった道具ですな。」

「それが聖なるものとして扱われたのは、聖人が用いて聖なる力が備わったからです。元々は聖杯も聖槍も、単なる一般道具にすぎなかったものです。」

「………」

「彼女の用いているホウキも同じことです。彼女が用いなければ、単なるホウキですが、彼女が用いれば、それは空を飛ぶ道具へと変る。そう、キリストの血をうけた杯が、聖杯となり、その力を得たようにです!」
ザワ…ザワ…
「静粛に!検事側、何かいうべきことはありませんか?」

「…ありません。」

「気になるようでしたら、今すぐ純潔検査でもしてみますか?」

「…弁護側の同意が得られるとは思えません。」

「もちろん同意する気はありません。」

「現状では強行は無理そうですしね…では、簡単な針検査や水責め検査は…」

「もしかして、御使いから奇跡の力を授けられたかもしれない人間に対して…ですか?」

「う、うむむ。では年齢に合わない知識量は…」

「良い師に巡り合えば、おかしな事では無いでしょう。極端な話ですが、メディチ家には、わずか10代で教皇の秘書となったものもいます。」

「そういえば、そんな話もありましたな…」

「………」

「弁護側は最後に、こう主張させて頂きます!」

「いけぇ!」
「彼女は、御使いに選ばれし奇跡を行える、魔女の格好が好きで、良い師にめぐり合った、ちょっと不思議な女の子だと!」
シーン
………………
「………」

「………」

「………」

「………」

>「…アレ?」

「う…ウソ臭い…うそ臭すぎるよ!」

「と、とにかく判決を下します。えぇ…なんともウソくさい弁護側の最後の主張ですが…
」

「(や、やばい!最後に大チョンボをしてしまったか!?)」

「まぁ、これに反対する有力な証言も証拠もありませんし…もちろん、こんな主張を認める気は、さらさらありませんが…一方の検事側の主張も、どうも先入観に囚われすぎていて、信用性に大きな問題があります。よって、本裁判はこの問題を…
不起訴
とします。」
\ パチパチパチ /
…ワー…ワー…ヒューヒュー…
\\ パチパチパチパチパチパチ //
「やったぁ!やったよ!今夜はラーメン大盛りだよ!」

「はは、そんなに暴れるなよ(勝てないかと思った)」

「…はぁ…助かったぁ」

「しかし彼女に不思議な力があることは確かなようですので、何らかの形でハッキリさせる必要があるでしょうが…とにかく今回は、これにて閉廷します!」

「…く、く…」

「どうしました?」

「…く、くそぉおおおお!こんな裁判、こんな茶番認められるかぁ!」

「なんですと!法廷の権威を無視するつもりですか!?」

「五月蝿いどけ!おい!奴等を取り押さえろ!」

「イエス!マイ・ロード!」

「えい!」
ドゴォ!!!!………………

「…やっちゃった。」

「天罰だよ。裁判を侮辱したから、天罰が下ったのさ。」

「本当に…急にあの部分だけ火事が起きるなんて、いやはや…きっと、法廷を蔑ろにしたので神様が怒ったのでしょうなぁ。」

「全くです…ははは。」

「ほほほ…」

「もう!どうみても魔法じゃん!
…なーんてね。これにて一件落着!」
終わりこの物語はフィクションです。
実際の組織及び人物、歴史、事件などにはいっさい関係ありません。