小説 - 終末勇者

戦いは終った。

紅蓮に燃え上がる魔王城の謁見の間で
向かい合う勇者ライトと魔王ディラス…

魔王はゆっくりと崩れ落ち、勇者は折れた剣で身を支えた。
魔王ディラスは口から大量の吐血をしながら微笑すると、
勇者ライトを指す。
「これで終ったと思うな…
いずれ、必ずや第二、第三の魔王が現れるであろう」
勇者ライトは激しく息を切らしながらも、顔を引き締めて叫んだ。
「幾らでも現れるが良い。そのたびに、僕が倒してやる」
魔王ディラスは笑った。大きく、激しく笑った。
まるで、魔王城全体が揺るがすかの如く
魔王ディラスの笑い声はフロア全体に響た。
「違う、お前がなるんだよ」


終末勇者


一人の若者が一振りの英知が込められた剣を手に入れた。
若者は言った「僕は世界を一つにしたいんだ」
若者は魔王となり、世界を恐怖に陥れた。

勇者が現れた。勇者は魔王を倒し、彼の持っていた
英知が込められた剣を手に入れた。
勇者は言った「僕はこの世界に秩序をもたらしたいんだ」
勇者は魔王となり、世界を震撼させた。

次の勇者が現れた。勇者は魔王を倒し、
彼の持っていた英知が込められた剣を手に入れた。
勇者は言った「僕はこの世界に平和をもたらしたいんだ」
勇者は魔王となり、世界を絶望させた。

次の次の勇者が現れたが、やはり魔王となった。
次の次の次の勇者も、魔王となった。
次の次の次の次の勇者も、その次も、さらに次も…
誰もが皆、魔王となった。

あるとき賢者が魔王に尋ねた。
「なぜ、貴方は魔王となったのですか」
すると魔王は、こういった。
「決して、かなわぬであろう願いのためだ」
さらに賢者は魔王に尋ねた。
「なぜ、貴方は戦い続けるのですか」
すると魔王は、こういった。
「かなわぬ願いを、かなえるためだ」
最後に賢者は魔王に尋ねた。
「決してかなわぬ願いのために戦う
 無意味ではないでしょうか?」
すると魔王は、こういった。
「いや、それは違う。私が魔王となり
 戦い続けている限り、願いは、かない続けるのだ」


<アルミトスの書 第六章 第1節>


街へ到着した勇者ライトを待ち受けていたのは
市民が総出を上げての、大歓迎。
街の中は紙吹雪が舞い、人々は熱烈に勇者を称えていた。
魔王を倒したのである。それも当然であろう。

だが、当の勇者は困惑していた。
ここまで、激しく出迎えてもらえるとは思っていなかったのだ。
しかし、そんな当人をよそに、街の歓迎ぶりは加熱していった。

魔王との戦いに傷つき疲弊した勇者は、体を休めるまもなく、へんてこりんな神輿にのせられ、意味不明な踊りを踊らされ、よくわからない祝福を山ほどうけ、どこから来たのかも定かでは無い有力者達から怒涛のように接待を受けた。

日も昇らぬ早朝に付いたというのに、
何やかんやと理由をつけて抜け出した時は深夜であった。

最早体も動かない。そうでなくとも魔王軍との戦いで疲弊している。
回復魔法は体の傷をなおしても、スタミナや精神的な疲れまでは
癒してはくれない。

今までの疲労が一気にでて、その場に座り込んだ。
座り込んでいる場所からは、街が一望できる。
夜にも関わらず。街は未だにお祭りムード一色であり、誰も彼もが浮かれていた。

その光景を見ながら、自分が成し遂げた事に対する誇り
と自信が沸き起こった。
だが、その一方で、心の奥底で深く沈んでいる自分も存在した。
強力無双の巨漢、ゴーム。
二丁拳銃の使い手ニヒルな、ランコット。
鋭利な頭脳を持つ、美賢者サーラ。
荒くれ者をまとめていた、海賊の首領ボルガ。
そして、彼が淡い思いを抱いた聖女タリカ…
彼と共に戦った仲間達は魔王城で全員散っていた。

ただ一人、生き残った自分に軽い自責の念が沸き起こる。
「すまない」
誰とも無く誤り、涙をこぼした。

もちろん、決意はしていた。
生きて帰れないことぐらいは百も承知であった。
ただ、現実に一人だけ生き残ったという事実は
人一倍優しい彼に重くのしかかっていた。

先ほど出あった有力者達は、早速死んだ仲間達の銅像を立てる話をしていたが
ライトには、どうでも良い話だった。それで彼らが戻ってくるわけでも無い。
ただ、彼らの、たぶん親切心から出たであろうこの申出は
黙って受け入れた。少しでも彼らのたむけになるかと思ったからだ。

そしてもう一つ…
ライトの腰に備え付けられた剣が
彼の心を沈めていた。

邪神剣カイガン。

伝承に伝わる、魔王がもちし、英知の剣。
そして、数多くの勇者を堕落させ魔王へと変貌させた、この世で、もっとも邪悪な剣。

腰から剣を抜き、剣先を見つめる。
折れた聖剣の代わりに、魔王にトドメをさした剣。
最初に手にした時は、特に意識したわけではなかった。

だが、魔王が死んだのと同時に、魔王の口から「お前が魔王になるのだ」と言わたことを思い出し、その場で、思わず剣を床に叩きつけてしまった。

剣は全力で叩きつけられたのにも関わらず、刃こぼれ一つなかった。
いらないからと言って、その剣を、そのままにしておくわけにはいかない。
魔王軍の残党が、その剣を手に入れて、再び魔王が誕生したら、これまでの戦いが無意味になってしまう。

嫌々ながらも折れた聖剣に変わり、腰に装着して魔王城を後にした。
剣先は怪しく光り輝いている。
ライトはつぶやいた。
「この剣を処分しなくては」

「それは困る」

想像外の返事に、ライトは全身が一瞬震えるほど驚いた。
「結論を焦る必要は無い、もっと心に余裕をもったらどうかね」
剣だ。邪神剣カイガンが言葉を発しているのだ。

虚をつかれて狼狽したライトであったが、そこは魔王を倒した勇者である。
しっかりと、気を入れると剣に向かって口を開いた。
「お前は数多くの勇者を魔王へと変貌させた邪剣だ」
「その認識は大きく間違っている」
邪神剣カイガンの応対に、ライトは再び狼狽した。
「何が間違っていると言うんだ」
「我は、ただの物だ。物はしょせん物にしか過ぎない。剣をどう用いるかは、持ち手次第だ」

…お前が、誘惑したからだろう。

ライトの頭の中を見透かすように邪神剣カイガンは続けた。
「我の力を欲したのは、彼らが、この地を愛し、平和を心から願った真の勇者だからに過ぎぬ」

邪神剣カイガンはさらりととんでもない発言をした。
この地を愛し、平和を心から願った者達がなぜ魔王となるのか。
ライトは、込み上げてくる怒りを隠さなかった。

「馬鹿な。真の勇者がなぜ魔王になる。人々を苦しめ、多くの者達を殺めるんだ」
「…すぐに分かる。おぬしもまた勇者なのだから」
ライトは、邪神剣カイガンの剣の塚にはめられている赤い宝石が、わずかながら光ったような気がした。


魔王城のふもとの街に勇者ライトが到着してから、わずか一週間で、世界に魔王倒れるの報が全世界に届いていた。
世界の国々では歓喜の声で溢れ帰り、人々は魔王と魔物によってもたらされていた恐怖から解放された自由を謳歌した。

そして、さらに、その三ヵ月後。
世界は未曾有の大混乱に陥ったいた。

グランディール帝国。対魔王軍用に編成されていた軍勢をあらたに、外征軍として再編成し、近隣諸国に対して保護を名目に進軍を開始。
アルヴィッチ共和国において、魔王軍消滅に対する軍事削減案に反対した軍部によりクーデターが発生、共和国軍アルディート将軍による独裁政権が樹立。
カスパル王国では、大量の兵士解雇により、膨大な失業者が生まれ経済は大混乱をきたした。さらに元兵士達による盗賊団が生まれるなど治安が低下。
さらに山岳地帯の資源採取を巡り、エルフとドワーフ、コボルトによる対立が深刻化。各地で戦闘が勃発。
魔王軍に協力したとして、ザネック族はガバネール族一万人を虐殺。民族問題に発展。
マーメイド海洋族が、魔王軍消滅に関して「人間との協力体制の終了」を宣言。先日に発生他した大津波に対して何ら対策をとらず、湾岸諸国は激怒。「漁猟規制の全面解禁」を通告したことにより、海洋族との対決姿勢を打ち出す。

「何という事だ」
ライトは頭を抱えこんだ。
こんなことになるとは想像してもいなかった。
魔王を倒せば、単純に平和が訪れると思っていた。
だが結果は、更なる混沌を生み出しただけである。

邪神剣カイガンは言う。
「魔王というタガが外れたのだ。自由となった人々は己が利益のみに走り始める。これは当然の摂理だ」
「始めから、知っていたのか」
憤怒をあらわらにしてライトは、邪神剣カイガンの柄を強く握りしめた。
「知っていたから、どうだというのだ?お前と語り合ったのは魔王が倒れた後だ、そもそも魔王が倒れる前に、世界は混乱するから魔王を倒すな…言ったとて、お前は信じようとしまいよ」
「それは…」
ライトは口ごもった。確かにそのとおりであった。
魔王を倒す。当時は、ただそれだけしか頭に無かった。
ただ漠然と、魔王さえ倒せば、それで平和が訪れると思っていた。
魔王が倒れた後に世界がどうなるかなど、考えてもみなかった。

カイガンは中央のルビーを怪しく光らせる。
「人々には共通の目的があってこそ争いをやめ、一つとなる。それもただの目的ではいけない。生存本能を呼び起こすほどの重要な目的があってこそ、種族をこえ、民族を超えた団結ができる」
「まさか…」
ライトは大きく目を見開き、邪神剣カイガンの赤い宝石を見つめる。
「かつて世界は混沌していた…国々や人々は自身の利益のみを追求し、他と手をつなぎあわせ、苦しみや悲しみから脱却しようとはしなかった」
「………」
「ある日、私は一人の若者の話し相手をしていた。どうしたら人々は手をつなぎ、争いを無くすことができる…彼は真剣に考え、悩みぬき、一つの結論に達した」
「…それが、魔王なのか」

しばらく沈黙が続いた。
一人と、剣は、その答えを心の中で反芻するかのように
ただ、静かに押し黙っていた。

「代々の勇者達もまた世界の安寧を考えていた」
再びカイガンの声が聞こえてくる。
「彼らもまた同じ結論に達した。そのために彼らは全てを捨て去った。地位も名誉も、そして矜持さえも…」
「………」
「身も心も邪悪な魔王となり、この世界の全ての憎しみを一身に受けた。それが、世界の平和となることを信じてな。魔物の世界をつくると偽り…そう配下をも裏切り、彼らは孤独の中で、世界のために、平和のために、己自身を生贄としたのだ…彼らこそ、まさに勇者の中の勇者であろう」
「………」

ライトは天を見上げた。
天井の星々は美しくきらめき、大きな月が爛々と闇を照らしている。
「闇の中の光りか」
「いや、違う、月は太陽の光があってこそ、光り輝くのだ」
ライトは剣の柄を強く握り締める。
「僕に魔王になれと言うのか」
「それは私の問いではない。自分自身で決めることだ。過去の勇者達もそうしてきた。だが、過去の者達がどうあれ、結論まで同じとは限らないだろう。お前は、お前でしか無いのだから」

ライトは唇を噛んだ。
唇から血が流れ、鉄さびの味がする。

砲撃の音が聞こえてきた。
ライトの滞在する土地に、攻撃が開始されたのだ。
もちろん、壊滅した魔王軍などでは無い。
人間が己の野心のために軍兵を動かしたからだ。

「僕は…」

時間は刻々と進み、歴史は流動している。
彼がいかなる道を進むかはまだ分からない。
ただ、その決断を下す時間は
そう長くは残されてはいなかった。

fin



マリンちゃんサイコちゃん(マー坊)
端末の次は、終末かよ!間は無いの、間は?」


じゃばらじゃばら(ブログ主)
「この、終末勇者は元々過去に書いた短編集の一つだったのじゃ」


マリンちゃんサイコちゃん(マー坊)
おい、無視すんじゃねぇ!
…つか、過去に書いた短編ってことは、今回は長期連載するつもりなの?」


じゃばらじゃばら(ブログ主)
わからん

正直、どうしようかと思っておる」


マリンちゃんサイコちゃん(マー坊)
「おいおい、書いたあとにそれかよ?」


じゃばらじゃばら(ブログ主)
「色々とネタがのぉ。。一応恋愛小説にしようかと思っておるのじゃが、どうにも…これなら、もう一方の作品の方が良いかと思っておるのじゃ」


マリンちゃんサイコちゃん(マー坊)
「ん?まだネタあるんだ。どんな題名?」


じゃばらじゃばら(ブログ主)
「さ☆つ☆じ☆ん☆き~僕の彼女は殺し屋さん。という題名でじゃな…」


マリンちゃんサイコちゃん(マー坊)
もう、いい。

分かったから、人のネタで相撲とるのは止めろ
つか、パクるなら、せめてもっと明るいのにしろよ!」


じゃばらじゃばら(ブログ主)
「…そんな、あっさり否定せんでも」





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