つねならぬ話 - 第六話「捕らわれし者3」

マリーとメイデンのつねならぬ話


強すぎる想いは心身を蝕み、あらゆる行動を奪いさる。
さらにそれは自分自身だけではなく、周囲にも広がり
近しい者達の身動きをも封じてしまうのである。
そして最後は、強すぎる想いに引きちぎられ、消失する。

人はそれを、呪縛という。





十数年前





カミュさん「…貴方の気持ちは嬉しい。けれど、私達はまだ学生なのだし、自重する必要があると思う。」



彼氏さん「………」



カミュさん「…もちろん…これは貴方と結婚したく無い。という意味ではなく…今、現在は無理だけど…将来は…私も…伴侶として共に過ごしていくことも念頭においています。」



彼氏さん「………」



カミュさん「…ですから…もし…婚約という形でもよければ…それはとても長い期間なると思うけれど…待っていてくれるのでしたら、私は、貴方の求婚を受入れたいと思います…」



彼氏さん「………」



カミュさん「…どうしたんですか?ひどく沈痛な面持ちですが…どこか体の具合でも悪いのですか?」



彼氏さん「…いや…そうじゃないんだ。」



カミュさん「…え?」




カミュさん「…10月13日、20時40分。両親により捜査願いが入る。
同日、22時10分。行方不明者の所持品の一部が草むらで発見…警察は事件性がアリとして捜査本部を立ち上がる…これは後で聞いた話ですが。」



マリンちゃん「え?え?それって…」



カミュさん「…翌、14日、私は冷たい…レンガ作りの部屋の中で目が覚めました。そこは彼の父が生前にワインを保存するために作った倉庫であると、しばらくして思い出し、自分が現在どのような状況にあるのかを確認しました。」






カミュさん「…これは…一体なんなんですか?」



彼氏さん「………」



カミュさん「…なぜ私が地下倉庫に、鎖に繋がれているですか?…納得できる正当な理由があるんですよね?」



彼氏さん「…君が欲しかったんだ。」



カミュさん「…え?」



彼氏さん「…欲しかったんだ。君が。」



カミュさん「…あきれた。それだけの理由で非行に走ったんですか?」



彼氏さん「…ああ。」



カミュさん「…ふぅ。私は貴方を買いかぶっていたようですね。正直ガッカリしました。もう少し、人の心をしんしゃくできる人だと思っていたのですが。」



彼氏さん「………」



カミュさん「あなたも所詮、「男の人」ということですか。良いですよ。あなたの望みを叶えてあげます。あなたの望むまま…ごゆるりと楽しんだらよろしいでしょう。」



彼氏さん「………」



カミュさん「けして望む形では無いけれど…貴方が相手なら、多少の不快は耐えてあげます。」



彼氏さん「………」



カミュさん「…私の声、聞こえていますか?早く解放して下さい。私はまだ、貴方を見限ってないんですよ?」



彼氏さん「…そうじゃない。そうじゃないんだ。」



カミュさん「…え?」



彼氏さん「…私は君の全てが欲しいんだ。」



カミュさん「だから私は…」



彼氏さん「………」



カミュさん「…な、何を考えているんですか?止めてください!嫌いに…嫌いになりますよ!そんなこと、私にさせないで下さい!私、貴方を嫌いになりたくない!」



彼氏さん「………」




カミュさん「その日の正午、第一次広域捜査を開始。約300人の捜査員が動員され、所持品の発見場所から、周囲600mを探索するも、手がかりは発見されず…」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…その時、私は地下室に留置させられていました。彼は身動きできない私の尊厳と誇りをふみにじり、その暴威をもって私を従わせようとしました。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…私は、彼を想っていました。だからといって、理不尽な暴威に屈しなければならないという理由にはなりません。私は、彼の責め苦をあがらいながら、必ず、この罪を償わせようと決意しました。」



マリンちゃん「…あの」



カミュさん「…なんですか?」



マリンちゃん「…これは一体、何の話なんですか?」



カミュさん「…マリンさんが知りたがっていた、私の「初体験」の話ですよ。」



マリンちゃん「…でも…これって、こんなのって。」



カミュさん「…貴方が望んだことですよ?しっかりと聞いてください。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…私は、何日も何日も、彼の暴威にさらされました。理不尽な行動に、内心怒りに震えながら様々な辛苦に耐えていましたが、ある日…納得できない彼の行為を…もう一度理由を問い直しました。」






カミュさん「…なぜ…なぜなんですか?」



彼氏さん「………」



カミュさん「…教えて下さい…なぜ、こんなことを始めたんですか?こんなことをしなくても…いつかは…」



彼氏さん「………」



カミュさん「…貴方が望むなら…どんなことでも…受入れるつもりだったのに…」



彼氏さん「………」




カミュさん「…彼の変貌の理由が知りたかったんです。精神的に追いつめられる中で「なぜ?」の一言が、私の中に反芻され…こだましました。」



マリンちゃん「…抵抗…しきれなかったの?」



カミュさん「…当初…私の胸の中は、彼に対する怒りと憎しみで溢れかえっていました。本当に信じていた彼が…最もやって欲しくない方法で…最も望んでいないことをおこなったのですから…でも…」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…彼に対する憎しみだけでは…一度は心に決めた相手には…抵抗する気力も気概もかけていたんです…何かしらの理由があると、心のどこかで「救い」を求めていたんでしょう…」



マリンちゃん「………」



カミュさん「そして彼は、静かに口を開きました…」





彼氏さん「…君に、死んだ両親のことを話したことはなかったね。」



カミュさん「貴方の…お父様と…お母様?」



彼氏さん「…父は…とても優しい人だった。困っている人を見ると助けてしまい、ついつい騙されてしまうことも少なくなかったが…「うそで良かった」と笑って済ませてしまうような男だった。」



カミュさん「………」



彼氏さん「でも、俺はそんな父が大好きだったよ。」



カミュさん「………」



彼氏さん「だが母は違った。母は若い男と駆け落ちし、俺の目の前から消えた。「あんな男についていけない」と捨て台詞を残して…」



カミュさん「………」



彼氏さん「その時、父は何といったと思う?「彼女は自分の本当の幸せを見つけたんだ。彼女がそれで幸せになるのなら、それで良いじゃないか」…と言ったんだよ。」



カミュさん「………」



彼氏さん「笑ってしまうぐらいの、お人よしだろう?でも、その言葉を聞いたとき、俺は父を誇りに思ったよ。誰が何と言っても、父は世界一の父親だと、胸をはって皆に言い続けた。」



カミュさん「………」



彼氏さん「だから母がいなくなっても、俺は平気だった。何しろ俺には誰にも負けない世界一の父がいる。これ以上のものは必要なかったし、贅沢だと思った。」



カミュさん「………」



彼氏さん「…五年後、父の商談に家族と付き添った俺は、とある酒場の路地裏で、ボロボロの服をきながら声をかけていた一人の女性に注視した。」



カミュさん「………」



彼氏さん「…母だった。」



カミュさん「…ああ」



彼氏さん「…美しかった母は、まるで道化のような化粧をしていた。玉のような肌は荒れ果てて、年齢より遥かに老けた顔つきとなっていた。それよりもショックだったのは…父の顔もわからないほど正常では無くなっていた。」



カミュさん「………」



彼氏さん「…驚いた父は、母を保護したが、性病と薬物により、もう手のほどこしようが無いありさまだった…その姿は、父と別れてからの生活を如実に表すものだったが…自由奔放に生きた代償として突き放すには…父はあまりにも優しい男だった。」



カミュさん「………」



彼氏さん「…客と家族の見分けもつかない母に…何度も何度も謝っていたよ…何度も何度も…私が悪かった…と。」



カミュさん「………」



彼氏さん「…一ヶ月後、父は病室にいた母を射殺して、書斎で自殺した。父の手に握られていた新聞には、母とかけおちした男が、何ものかに殺害された記事が掲載されていた。」



カミュさん「………」



彼氏さん「…父は死ぬ直前…何度も母に言っていた…私にもっと男としての魅力があれば…女性を…妻を、縛り付けるだけの力があれば…と。」



カミュさん「…だから私を?」



彼氏さん「…君の存在が、俺の中で大きくなるにつれて、怖くなったんだ。俺も父と同じく、君を幸せにできないかもしれない。その結果…俺の手から離れてしまい…別の悪い人間に騙されて不幸せになるんじゃないかと…たまらなく…我慢できなかった。」



カミュさん「…それが…私を留置し、従わせる本当の理由なの?」



彼氏さん「君を…幸せにしたかったんだ。ただ、それだけなんだ。そしてこの手段が間違っていると分かっていながら実行してしまった…きっと、俺は、人を愛する資格なんて無いんだろう…」





カミュさん「…この答えを聞いたとき、私は彼を憎みきることは不可能だと悟りました。」




マリンちゃん「………」



カミュさん「…私は彼を説得することに決めました。彼を説得して正しい道に戻すことこそ、私が行うべき責務であると認識したのです。」



マリンちゃん「…でも、恨んで…憎んでいたんでしょ?」



カミュさん「…ええ…それは言葉にならないほど。」



マリンちゃん「なら…」



カミュさん「…しかし、彼は心に大きな傷を負っていたのです。私を愛することにより、それを広げてしまったのであるなら、私にも責任があります。それに…」



マリンちゃん「…?」



カミュさん「…彼のことを愛してましたから。」



マリンちゃん「…でも、少しおかしい気がする。なんか…上手く言えないけど…間違っている気がするよ。」



カミュさん「…言いたいことは分かります。彼は罪を犯しました。そして罪は償わなければなりません。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「ですが幸い…と言うのもおかしいですが、幸い被害にあったのは私だけです。彼が改心し、私の良き伴侶となってくれれば…彼の償いはそれだけで十分だと思ったんです。」



マリンちゃん「…そんなに割り切れるものなの?」



カミュさん「…他の人が、私と同じ立場になり、彼の言葉を聞いて、どう思うかは分かりませんし、興味もありません。ただ、私が思ったことは…彼には私が必要なんだ。ということです。」





カミュさん「…ごめんなさい。私…あなたの事を何も知らなくて。」



彼氏さん「………」



カミュさん「私がもっと、貴方に関心を向けていれば…こんな事態を招くことは、なかったんですよね…」



彼氏さん「………」



カミュさん「貴方の伴侶になる…なんて浮かれているばかりで…貴方が何に苦しんでいるのか…いえ、苦しんでいる事実させ理解してなかった…」



彼氏さん「………」



カミュさん「やりなおしましょう…ね?二人で…一緒に…」



彼氏さん「…それは…できない。」



カミュさん「…信じて…私は、絶対に裏切りません。貴方に抱きしめられてからずっと…生涯の伴侶は、貴方一人だけだと決めていました。」



彼氏さん「………」



カミュさん「私は、貴方の為なら何でもします…だから…」



彼氏さん「…何でも?」


カミュさん「ええ…それで貴方の心が癒されるのなら…」



彼氏さん「…すまない。嘘をついて逃げ出そうとするのは良い。だが、言ってほしくない嘘をつくのは止めてくれ。」



カミュさん「嘘じゃない!私は本当に…」



彼氏さん「…なら、従僕しろ。そうすれば鎖も外すし、ここから出しもする。」



カミュさん「…それはダメ。」



彼氏さん「…出来ないだろ?「何でもする」と言いながら…だから言って欲しくなかった。落胆は君に対する行為に転換される…だから頼む、希望を持たせないでくれ。」



カミュさん「貴方に…嘘はつきたくないの。」



彼氏さん「…結局、君は最も大切なものを決して触れさせようとしない…だからこそ…」



カミュさん「私は…ただ、貴方と一緒に…貴方と共に肩を並べて生きたいだけ…同じ視線では…いけないんですか?貴方の足元にはいつくばり、下から眺めないと認めてはくれないんですか?」



彼氏さん「…下から眺める必要は無い。ただ、俺のモノになってくれれば、どこにいてくれても構わない。君が一族の当主になろうが上司になろうが…そんな事に興味は無いんだ。」



カミュさん「……ああ。」


彼氏さん「…ただ、君が欲しい。それだけなんだよ。」



カミュさん「…私は…私のモノです。誰のものでもありません。」



彼氏さん「…分かっている。君の強固な自意識は誰よりも知っているよ。だからこそ…縛らなければ…奪わなくてはいけない。」



カミュさん「…ダメなんですか…そこまでしなければダメなんですか?私の心も…体も…全て貴方のモノなのに…私の一分の尊厳まで奪わないとダメなんですか?」



彼氏さん「………」



カミュさん「…それまで失ったら、私は…私では無くなってしまう。私が失われてしまう…それでも構わないというんですか?」



彼氏さん「…構わない。」



カミュさん「…え?」



彼氏さん「…例え壊れても…私は君を放しはしないよ。」




カミュさん「…この言葉を聞いたとき、私は少しだけ嬉しくなりました。壊れていても好きでいてくれる…それは何よりの励みとなりました。」




マリンちゃん「…励みって?」



カミュさん「…彼を説得する励みです。これは…逆説的とも言えるのですが…彼が私を欲しがれば、欲しがるほど、私も彼を説得できるのでは無いかという…希望が沸いてきたんです。」



マリンちゃん「…相手の欲求が原動力ってこと?」



カミュさん「…これほど私を愛してくれるのなら、いつかは私の言葉を受入れてくれるはず…そう思い…そう思うことが、私の唯一の光明だったんです。」



マリンちゃん「…でも、相手のやることは無茶苦茶だし、説得できるとは思えないんだけど。逃げすことを考えた方が良かったんじゃないの?」



カミュさん「…マリンさんは、わりと素直なんですね。」



マリンちゃん「む…今、トゲを感じたぞ。」



カミュさん「壊れていても愛してくれるのなら、死体になっても愛してくれるでしょうね。」



マリンちゃん「…う。そうか相手は正気じゃないんだ。何だかんだ言っても最後は…」



カミュさん「…それに、もし逃げ出したとしても、彼がどういう行動にでるか。」



マリンちゃん「…行動って…追いかけてくるとか?」



カミュさん「…自棄になって自殺、ということも考えられます。」



マリンちゃん「…へ?」



カミュさん「言う事を聞かないのなら殺す…程度の相手なら、別に相手がどうなろうが知ったことではないですが…彼が自殺する可能性を考えると、どうしても決断はできませんでした。」



マリンちゃん「なんで?勝手に死なせればいいじゃん。一人よがりの自傷行為に何で付き合うの?」



カミュさん「…自傷行為なんて難しい言葉を良く知っていますね。」



マリンちゃん「…むぅ、またトゲがあることを。」



カミュさん「私の無知により追い詰めてしまった償いもできず…狂気に走り私を尊厳を踏みにじった彼に償いをさせることができず…ただ、辛い過去だけが残る結末…幾らなんでも、あんまりだとは思いませんか?」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…先ほども言いましたが、それに私は、彼を…失うことは出来ませんでした。彼に傷つけられても…それでもなお、私を愛してくれているという一点で、私は…彼を許すことも、自分を保つことも出来たんです。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…だから、彼があの言葉を私に告げた時、私の心は崩れてしまいました。」



マリンちゃん「…え?」





彼氏さん「…私が憎いか?」



カミュさん「…憎い?…ええ…憎いに決まっています…こんなにヒドいことをした上に…私の言葉を受入れてくれないんですから。」



彼氏さん「…そうか。」



カミュさん「…今頃、自分のした事に対して怖くなりましたか?…なら、今すぐ私を放して下さい。」



彼氏さん「…放したら…その手で、私を殺すんだろう?」



カミュさん「…それは素敵なアイデアですね…でも、そんなに簡単に終わらせませんよ…私をお嫁にいけない体にしたのですから責任を果たしてもらわないと…」



彼氏さん「…結婚しろと、いうのか?」



カミュさん「…当然です。貴方を…私の良い伴侶となるよう、徹底的に再教育してあげます。」



彼氏さん「…分からないな。俺を受入れないのなら…嫌えば良いのに。そうすれば…」



カミュさん「…あら、知らなかったんですか?私は一度決めたら絶対に妥協しないんですよ。なにせ渾名が”超合金”ですから。」



彼氏さん「俺を好きだというのか?…誇りを渡さないクセに。」



カミュさん「…貴方こそ…人生を捨ててまで、私を求めてクセに。」



彼氏さん「…笑ってしまうな。お互いを求めるのに、接点が見つからないなんて。」



カミュさん「…ボタンの掛け違いから始まったのですから…一度かけなおす必要があるんです。ただ、それだけの話ですよ。」



彼氏さん「…あるいは、決して交わることの無い線なのかもしれないな。」



カミュさん「そんなことはありません!絶対に私達は合います!諦めないで、私を見て下さい!」



彼氏さん「………」



カミュさん「大丈夫。怖がらないで、私は貴方を見捨てたりしないから…ね?」



彼氏さん「………」



カミュさん「…さぁ、もっと私を見て下さい。」



彼氏さん「………」



カミュさん「………」



彼氏さん「…君が」



カミュさん「…え?」



彼氏さん「…君が、ここに繋がれてから、どのくらい経過した分かるか?」



カミュさん「どのくらいたちましたか?30日まで数えて止めたので分かりません。」



彼氏さん「…もう半年は過ぎている。」



カミュさん「そんなにたちましたか。月日が経つのは早いものですね。」



彼氏さん「…冷静だな。その精神力には敬意を表すよ。」



カミュさん「惚れ直しましたか?」



彼氏さん「…ずっと惚れてるよ。」



カミュさん「確かに辛いですけど、ちょっとハードな婚前旅行と割り切れば、大して気にもなりません。ここは綺麗に掃除されていますし、ベットのシーツもお洋服も、ほぼ毎日取り替えてくれます。それに日に一回は…ガラス越しですが、日の光を浴びることも許してくれますしね。それになによりも…」



彼氏さん「…?」



カミュさん「…貴方の作るお料理、美味しいです。」



彼氏さん「…前に君が作ってくれた料理の方が美味かったさ。」



カミュさん「貴方が、私のために作ってくれる。その事実が一番の調味料です。」



彼氏さん「…そうか。」


カミュさん「私は食べて寝るだけだから楽なものですね。正直、主婦に家事を全て任せてしまう夫の気持ちが分かりました。結婚したら専業主夫になりませんか?」



彼氏さん「…君がやしなってくれるのか?」



カミュさん「ええ、外に出て働きますよ。私達の幸せのために…」



彼氏さん「…そんなことをされたら浮気が心配だな。」



カミュさん「そうは言いますが、外で働いている人は、家人が間男を引っ張り込まないか心配するものですよ?」



彼氏さん「…そうか、そうだな。なら衛星通信装置でもお互いに付け合うか?」



カミュさん「それは、いいですね。どこにいても居場所が分かりますから便利です。」



彼氏さん「連絡がつかないと罰金とか…」



カミュさん「貴方の場合のみ、近くから女の人の声が聞こえるとヒネるとか…」



彼氏さん「…それは俺のハードルが高くなるような。」



カミュさん「あら、統計的にみても男性のほうが、女性よりも浮気をする確率が高いのですから当然ですよ?」



彼氏さん「…そうだな。ふふふ。」



カミュさん「…ふふ。」



彼氏さん「…こんな話をしていると半年前に戻った錯覚を覚えるよ。」



カミュさん「…戻れますよ。貴方さえ望めば…」



彼氏さん「…半年以上の不在は、どう見繕うつもりなんだ?」



カミュさん「…何でも言い訳は出来ます。海外へ旅行に行きたくなったとか、しばらく一人旅をしたくなったとか、山奥に巫女の修行しにいっていたとか…私が強行に主張すれば、それ以上どうにもならないハズです。」



彼氏さん「…大した人だよ君は。」



カミュさん「そうでしょ?パートナーにしないと勿体無いですよ。」



彼氏さん「…半年間もここにいて…どうして談笑ができるんだ?なぜ、そこまで強い精神力を持つことができるんだ?」



カミュさん「貴方が…好きだからです。」



彼氏さん「…なに?」



カミュさん「貴方の間違った行動を正すこと…正してくれることを信じているから…」



彼氏さん「………」



カミュさん「この…半年間。確かに精神的にひどく追い詰められました。しかし、人一倍、私の体と健康に気を使ってくれたのも貴方です。」



彼氏さん「………」



カミュさん「おかげさまで、心はボロボロですけど、体は元気一杯ですよ。」



彼氏さん「………」



カミュさん「それに、やり方も問題です。貴方は私に対して、いかなる行為を行うときでも愛情をいっぱいそそいでしてしまいます。それではいけません。」



彼氏さん「………」



カミュさん「勉強、練習、しつけ、調教…これら他者に何かを教え込ませる時に必要なのは、アメとムチであり…これらはメリハリをつけて行わなければいけません。」



彼氏さん「………」



カミュさん「特に人の意思を奪うほどの非行を行うのでしたら、相手に対する情を捨て去るか、凍結させねばなりません。ですが、貴方にはそれができてはいません。」



彼氏さん「…博識だね。」



カミュさん「文学人間ですから…その手の本を貴方と一緒に読んだこともありましたね。」



彼氏さん「…ああ、そうだったね。」



カミュさん「………」



彼氏さん「………」



カミュさん「…上手くいくはずがありません。元々、貴方はこんな事をできる人間じゃないんですから。」



彼氏さん「………」



カミュさん「私の幸せを感受してしまうような人が…こんなことを行うなんて、そもそも無理だったんですよ。」



彼氏さん「………」



カミュさん「辛かったんですよね…心ならずともしてきたことに…貴方が泣いていることぐらいお見通しですよ?」



彼氏さん「………」



カミュさん「…ね?鎖を外して下さい。そうしたらギュッとしてあげます。」



彼氏さん「…ギュ?」



カミュさん「ギュ…と、貴方が私を抱きしめてくれたように…私も貴方を抱きしめてあげます。」



彼氏さん「………」



カミュさん「知っていますか?ギュ…と、抱きしめられると、とても気持ちがいいんですよ?きっと、疲れた心も体も休まると思います。」



彼氏さん「…そんな、ちっちゃい体で?」



カミュさん「ちっちゃくても…胸の中に飛び込んでくれたら…貴方をつつみこんであげますよ。」



彼氏さん「………」



カミュさん「…きて。」



彼氏さん「………」




カチャ



カミュさん「…あっ」



彼氏さん「…鎖を外した。ドアの鍵も開けておく。」



カミュさん「…うれしい。」



彼氏さん「………」



カミュさん「…貴方なら、きっと分かってくれると思いました。」



彼氏さん「………」



カミュさん「…きて。」



彼氏さん「………」



カミュさん「…もう、恥ずかしがって、どうするんですか?さぁ…」



彼氏さん「…いや、いい。」



カミュさん「…え?」



彼氏さん「…いいんだ。それは。」



カミュさん「いいって…」



彼氏さん「…ここに拳銃がある。父が使っていたものだ。銃弾も入っている。」



カミュさん「…私に?」



彼氏さん「…好きなように使ってくれ。」



カミュさん「…どういうことですか?意味が分かりません。これで私にどうしろと言うんですか?」



彼氏さん「………」



カミュさん「…答えて…答えて下さい!なぜ…どうして!?」



彼氏さん「………」



カミュさん「お願い…答えて…なんで黙っているの…」



彼氏さん「………」



カミュさん「お願い…」




カミュさん「…彼に拳銃を渡されたとき、私は泣きました。あらゆる責め苦に涙一つ流すことはありませんでしたが…この時は泣きました。泣いて、泣いて大声で泣いて…私は世界が反転し暗闇に包まれるのを感じました。」




マリンちゃん「…どういうこと?」



カミュさん「…抱擁を拒否され、銃を渡されたときに理解したんです。彼が求めていたのは、私自身ではなく、自分を捨てた父母の幻影を投影する存在だということに。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…彼の本当の望みは…自分を一緒につれていかなかった両親の元へ行くことだったんです。それで愛するべき対象…私に父母の影を重ねて、送って貰いたかった。そういうことです。」



マリンちゃん「…そんな。」


カミュさん「…それを悟ったとき、私の中に残っていた、最後の尊厳は打ち砕かれました。皮肉にも「彼に愛されている」と思っていたことで保っていた、私の認識が崩壊したんです。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…失ったんです。このとき…私は本当に大事なものを…」



マリンちゃん「そんな。そんなのって…」



カミュさん「だから私は決めたんです。復讐しよう…って。」



マリンちゃん「…え?」



カミュさん「彼が私の全てを奪って、空っぽにしちゃったように…私も、彼の全てを奪おうって…」




マリンちゃん「………」



カミュさん「奪って、奪って、奪いつくして。そして最後に「私」しか残らないように…「私」だけしか残らないように…」



マリンちゃん「…それ、狂ってるよ?」



カミュさん「…ふふ。そうですね。」



マリンちゃん「うう…そんな透明な笑顔を返さないでよ…」



カミュさん「…クス、ごめんなさい。あの時のことを思い出すと。今でも心が透明になる気がするんです。真っ白で、透き通っていて…」



マリンちゃん「…うう…聞きたく無い…」



カミュさん「私は、復讐を成し遂げるために、彼に従僕することを決めました。彼に従僕し、気を引かせるのが…この場合、唯一の道だと考えたのです。」



マリンちゃん「…あ、あのね…一つ聞いていい?」



カミュさん「なんですか?」



マリンちゃん「その…ママさんの考えって…本当にそうだったの?」



カミュさん「本当…とは?」



マリンちゃん「…そ、その…彼氏さんが、自分に両親の影を合わせたって…いきなりそういう話が出てきちゃったから…本当なのかな…て。」




カミュさん「さぁ?」



マリンちゃん「…さ、さぁ?」



カミュさん「単なる妄想です。彼に真意を聞いても答えてはくれなかったですし、証拠もありませんしね。」



マリンちゃん「ちょ、ちょっと待って。それって…」



カミュさん「普通に考えれば、心身が極限にまで衰弱し、本能が自我崩壊を食い止めようと、目の前にあったツール(銃)で彼に従う為の虚構を創り上げた。…と解釈するのが妥当でしょうね。」



マリンちゃん「自分も信じていない想像で復讐を誓ったの!?」



カミュさん「本当かどうかなんて、もうどうでもいいことなんです。私が復讐を誓った。その事実だけが重要なんです。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「…それから…私は、彼の命ずられるまま、どのような要求にも応じました。今まで言わなかったことを言い。今まで出来なかったことを行いました。」



マリンちゃん「…不信がられなかった?」



カミュさん「もちろんされました…でも、不信というより、驚きという感じでしたけれど。」




彼氏さん「…どうしたんだ?」





カミュさん「…と、聞いてきましたので、私は正直に答えました。『貴方の全てを手にいれるためなら、他のことは、もうどうでもいいんです』と。」



マリンちゃん「…うう、それって今まで彼氏さんが言ってたことじゃない。」



カミュさん「ふふ、彼も今の貴方と同じ顔をしていました。最も今までの経緯がありましたから、完全には信じられなかったんでしょうね。その後、かなり無茶な命令をしてきました。」



マリンちゃん「そ、そうなの。」



カミュさん「聞きたいですか?」



マリンちゃん「い…いや、いいです。」



カミュさん「それでも、しばらくするうちに、私が本当に従順になったのを知ると、そう変な命令はしてこなくなりました。目的が嗜虐ではなく、私の意思剥奪だったので、当たり前と言えば当たり前なのですが…」



マリンちゃん「…ふ、不満だったの?」



カミュさん「そうですね…もっと色々と試してくれてもよかったと思いました。」



マリンちゃん「…積極的だね。」



カミュさん「抵抗する理由がありませんでしたからね。逆に彼が注目してくれるのなら、どんな命令でもして欲しかったぐらいです。」



マリンちゃん「…むぅ…ダメ。くらくらしてきた。」



カミュさん「そのうち彼の口調も、命令調から、元の優しい彼の口調に変ってきて…いつしか一緒に、よりそって生活しているようになりました。」



マリンちゃん「寄り添い?閉じ込められていたんじゃ…」



カミュさん「既に前回の時点で、鎖も家の鍵も外されていましたから、もう閉じ込められている。という状況には無かったですね。」



マリンちゃん「…あ、そうか。じゃあ、寄り添うってことは、その時は彼氏さんの部屋で寝泊りしてたってこと?」



カミュさん「そうですね。その頃になると、彼の部屋で一緒に寝るようになっていました。…一緒にお食事を作り、お洗濯をし、お掃除をして、お風呂に入る…依存度の高さを除けば、同棲と変らなかったんじゃないでしょうか?」



マリンちゃん「…そうなんだ。」



カミュさん「…比較的、私の理想としていた生活と似ていたので「これならば、もっと早くこうしていれば良かったかな」などと愚にもつかないことを考え始めたとき、彼は最後の踏み絵を私の前に置きました。」



マリンちゃん「…踏み絵?」



カミュさん「彼はおもむろに…私の目の前に婚姻届を置いたのです。」



マリンちゃん「婚姻って…結婚申込書だよね?それが踏み絵なの。」



カミュさん「私が今まで拒否し続けた…とても大切なものを…彼の言うがままに受入れるかどうか見たかったのでしょう。用紙を前に置くのと同時に、私の耳元で「子供をつくろう」と、囁きました。」



マリンちゃん「…うう…なんか気分が悪い。」



カミュさん「…ふふ、マリンさんには分からないかもしれませんが。私は、この婚姻届を見た時、脳髄にしびれるような快感が突き抜けたんですよ。」



マリンちゃん「…な、なんで?」



カミュさん「彼は、この事実をもって、私を縛りたいと考えていたのでしょうが。この紙は、私を縛るのと同時に、彼を縛るものでもあるんです。分かりますか?彼が私を妻にしたのと同時に、彼は私の夫となるんです。」



マリンちゃん「…うん。」



カミュさん「…まだ、彼の全てを手に入れたわけでは無いけれど…彼を、私の…私の唯一の夫とすることができる。彼の存在全てを求めることが目的となった私にとって…これ以上は無い絶頂でした…」



マリンちゃん「…うぇ。」



カミュさん「私は嬉しさのあまり…ペンを持つ手が震えてしまい…サインを書くのにひどく手間取りました。彼に婚姻の意思が無いと疑われるのが嫌で、あの時は感情を抑制するのに必死でした。ふふ。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「そして…彼はサインの確認した後、私の指に婚約…いえ、結婚指輪をはめてくれました。私は、嬉しくて、嬉しくて、涙をポロポロこぼして言いました。「私は貴方のモノです。だからずっと、そばに置いて下さい」と…」



マリンちゃん「………」



カミュさん「彼は、そんな私を見て、にっこりと微笑むと、優しく唇にキスをしてくれました。「ようやく君を手に入れた」と言って…」



マリンちゃん「………」



カミュさん「彼の言葉に、意識が失うほどの幸福感に包まれましたがハタと気がつきました。「私は、まだこの人を手にいれて無い」。私は直接、その事を彼に言ったのですが、勘違いした彼は私に交換用の指輪を渡してくれました。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「本当なら、その時に訂正すれば良かったのでしょうが、指輪を見た瞬間、そんな気も吹き飛び、彼の指に指輪をはめ込むのに夢中で…頭が一杯になって、忘れてしまいました。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「でも、まぁ…結婚の時に、わざわざ復讐を口にするのも何ですし、結果的にみればそれで良かったかもしれません。」



マリンちゃん「………」



カミュさん「こうして私達は、誰にも認められていない結婚を行いました。このまま、平穏に終わるのかと錯覚するほど、満ち足りた日々は、しかし、外部的要因によって終わりを迎えました。」



マリンちゃん
「…外部要因?」


第一話-「萌ゆる話1」
第二話-「萌ゆる話2」
第三話-「恋愛なる話」
第四話-「とらわれし者1」
第五話-「とらわれし者2」
第六話-「とらわれし者3」
第七話-「とらわれし者4」



マリンちゃんサイコちゃん
当ブログのマスコット。魔女っ娘。口は悪いが、性格も悪い。「奈落のマリン」の異名を持つ。将来の夢はお嫁さん。

操ちゃん操ちゃん
宇宙海兵隊学徒隊員。未来の士官候補生。つっこみ担当の筋肉バカちゃん。


カミュさんカミュさん
GOGOカミュさん!の主人公。自他共に厳しい奥様。夫を深く愛しているが、その深さの分だけ容赦しない。


パパさんカミュさんの伴侶。通称パパさん。カミュさんにベタ惚れで頭が上がらない。



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